相続したマンションを売るときの税の特例 — 空き家の3,000万円控除は区分所有登記のマンションに使えない
結論: 相続した実家を売るときの「空き家の3,000万円特別控除」は、区分所有建物登記がされている建物には使えないため、そのように登記された分譲マンションの住戸は対象外です。国税庁が対象家屋の要件の一つに「区分所有建物登記がされている建物でないこと」を挙げているためです。相続したマンションの売却では、代わりに相続税の取得費加算、相続人自身が住んでいた場合のマイホームの3,000万円特別控除、所有期間の引き継ぎによる長期譲渡所得の扱いなどが関係しうる制度として挙げられます。
この記事は、親から築古マンションを相続し、住む予定がなく売却を考えている方に向けて、関係しうる税の制度を公的資料で整理したものです。どの特例を使えるかの判断や、売却の時期・是非を勧めるものではありません。
この記事の制度の内容は、すべて2026年10月15日に確認した国税庁などの公的資料に基づきます。国税庁タックスアンサーはいずれも「令和8年4月1日現在法令等」の版です。
1. なぜマンションは空き家の3,000万円控除の対象外なのか
特例の概要
国税庁タックスアンサー No.3306 は、相続または遺贈で取得した「被相続人居住用家屋」やその敷地等を、2016年(平成28年)4月1日から2027年(令和9年)12月31日までの間に売って一定の要件に当てはまるときは、譲渡所得の金額から最高3,000万円まで控除できると説明しています。2024年1月1日以後の譲渡で、家屋と敷地等を取得した相続人が3人以上の場合は2,000万円までです1。
対象となる家屋の要件(原文)
同ページは、特例の対象となる「被相続人居住用家屋」を、相続の開始の直前に被相続人の居住の用に供されていた家屋で、次の3つの要件すべてに当てはまるものとしています1。
イ 昭和56年5月31日以前に建築されたこと。 ロ 区分所有建物登記がされている建物でないこと。 ハ 相続の開始の直前において被相続人以外に居住をしていた人がいなかったこと。
相続したマンションの住戸が区分所有建物として登記されている場合は、1981年5月31日以前に建築された築古マンションであっても、ロの要件に当てはまらず、この特例の対象になりません。確定申告の提出書類にも、登記事項証明書等で「被相続人居住用家屋が区分所有建物登記がされている建物でないこと」を明らかにするものが挙げられています1。
ご自身の住戸が区分所有建物として登記されているかは、法務局で取得できる登記事項証明書で確かめられます。
そのほかの主な要件(参考)
戸建ての場合に使われるこの特例には、ほかに次のような要件があります1。
- 相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること
- 売却代金が1億円以下であること
- 相続の時から譲渡の時まで事業・貸付け・居住の用に供されていないこと など
- 売った家屋や敷地等について、相続財産を譲渡した場合の取得費の特例など他の特例の適用を受けていないこと
最後の点は、次の章の取得費加算の特例と、この空き家特例は同時に使えないことを示しています。
2. 相続したマンションの売却で関係しうる特例
空き家特例が使えない場合に関係しうる制度を、国税庁の資料から整理すると次のとおりです。どれに当てはまるかは個別の事情で決まります。
| 制度 | 主な要件(抜粋) | 期限・期間 | 出典 |
|---|---|---|---|
| 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例(取得費加算) | 相続や遺贈で財産を取得した人で、その人に相続税が課税されていること | 相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡 | 2 |
| マイホームを売ったときの3,000万円特別控除 | 売った人が自分で住んでいた家屋であること(現に住んでいる家屋、または以前に住んでいた家屋)。特別の関係がある人への売却でないこと など | 以前に住んでいた家屋は、住まなくなってから3年を経過する日の属する年の12月31日までに売る場合に限る | 3 |
| マイホームを売ったときの軽減税率の特例 | 自分の居住用財産であること。売った年の1月1日において家屋・敷地の所有期間がともに10年を超えていること など | 同上(以前に住んでいた家屋の場合) | 4 |
| 長期譲渡所得の税率(特例ではなく区分) | 売った年の1月1日において所有期間が5年を超えること。相続で取得した資産は被相続人の取得の時期を引き継ぐ | — | 56 |
(1) 取得費加算の特例
相続税が課税された人が、相続した財産を一定期間内に売った場合に、相続税額のうち一定金額を、売った資産の取得費に加えられる特例です。加算する額は次の算式で計算し、この特例を使わないで計算した譲渡益を超える場合は譲渡益相当額が上限になります。財産ごとに計算します2。
取得費に加算する相続税額 = その者の相続税額 × その者の相続税の課税価格の計算の基礎とされたその譲渡した財産の相続税評価額 ÷(その者の取得財産の価額+その者の相続時精算課税適用財産の価額+その者の純資産価額に加算される暦年課税分の贈与財産の価額)
相続税の申告期限は、被相続人が死亡したことを知った日(通常は死亡の日)の翌日から10か月以内です7。取得費加算の期限はこの申告期限を起点に数えるため、相続税の申告の有無と申告期限を最初に確かめておく必要があります。相続税が課税されていない場合(遺産が基礎控除額の範囲内で申告も納税も不要な場合など)は、要件(2)に当てはまりません27。
(2) 相続人自身が住んでいた場合のマイホーム特例
マイホームの3,000万円特別控除は、売った人が自分で住んでいた家屋が対象で、所有期間の長短に関係なく使えるとされています3。親と同居していた相続人が、相続したマンションを売る場合などが考えられます。一方、相続人が住んだことのない住戸は「現に自分が住んでいる家屋」「以前に住んでいた家屋」のいずれにも当たりません。この特例の適用を受けることだけを目的として入居したと認められる家屋や、一時的な目的で入居した家屋は対象外です3。
3,000万円特別控除と軽減税率の特例は重ねて受けられると、No.3305 に記載されています4。相続で取得した住戸の「10年を超える所有期間」をどう数えるかは、税務署に確認してください。
(3) 所有期間の引き継ぎと長期譲渡所得
国税庁は、相続や贈与によって取得したときは「被相続人や贈与者の取得の時期がそのまま取得した相続人や受贈者に引き継がれます」としています6。親が長く所有していた築古マンションであれば、相続から間もなく売った場合でも、売った年の1月1日時点で所有期間が5年を超えていれば長期譲渡所得として扱われることになります。
| 区分 | 所有期間(売った年の1月1日時点) | 税率 |
|---|---|---|
| 長期譲渡所得 | 5年超 | 所得税15%、住民税5% |
| 短期譲渡所得 | 5年以下 | 所得税30%、住民税9% |
2013年から2037年(令和29年)までの各年分は、このほかに基準所得税額の2.1%の復興特別所得税がかかります89。
計算式と仮の数値による例
土地・建物の譲渡所得は、ほかの所得と分けて(分離課税で)計算します。長期譲渡所得の税額は次の式で求めます58。
課税長期譲渡所得金額 = 譲渡価額 -(取得費+譲渡費用)- 特別控除額 税額 = 課税長期譲渡所得金額 × 15%(住民税5%)
相続した資産の取得費は、被相続人が買い入れたときの購入代金や購入手数料などを基に計算し、建物は所有期間中の減価償却費相当額を差し引きます。取得費が分からない場合などは、売った金額の5%相当額を取得費(概算取得費)にできます610。
以下は仮の数値による計算の流れの例で、実在の事例ではありません。特別控除・取得費加算はいずれも使わない前提です。
- 前提(仮): 譲渡価額2,000万円、取得費が分からないため概算取得費(2,000万円×5%=100万円)を使う、譲渡費用80万円、所有期間は被相続人の取得時から5年超
- 課税長期譲渡所得金額: 2,000万円 -(100万円+80万円)= 1,820万円
- 所得税: 1,820万円 × 15% = 273万円
- 復興特別所得税: 273万円 × 2.1% = 5万7,330円
- 住民税: 1,820万円 × 5% = 91万円
実際の税額は、取得費の書類の有無、特例の適用、ほかの譲渡の有無などで変わります。
3. 売却までに確認しておくこと
(1) 相続登記。 2024年(令和6年)4月1日から、不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内の相続登記が義務になりました。正当な理由なく登記をしない場合、10万円以下の過料が科される可能性があります。2024年4月1日より前に相続したことを知った不動産で未登記のものは、2027年(令和9年)3月31日までに登記する必要があります11。
(2) 取得費の書類。 親が購入したときの売買契約書など、取得費の根拠になる書類があるかを確かめます。相続人が支払った登記費用や不動産取得税も、業務に使われていない土地建物では取得費に含まれます。ただし概算取得費(売った金額の5%)を使う場合は、これらを取得費に含められません6。
(3) 相続税の申告の有無と期限。 相続税の申告期限(死亡を知った日の翌日から10か月以内)と、取得費加算の特例を使える期限(申告期限の翌日以後3年を経過する日まで)を確認します72。
(4) 確定申告。 ここで挙げた特例は、いずれも一定の書類を添えて確定申告をすることが適用の条件です。申告先は所轄の税務署です23。
4. 管理費の滞納や、建替え決議が進んでいるマンションの場合
管理費・修繕積立金の滞納
区分所有法は、管理組合などが規約や集会の決議に基づいて区分所有者に対して持つ債権について、その住戸に先取特権を認め(7条)、その債権は「債務者たる区分所有者の特定承継人に対しても行うことができる」と定めています(8条)12。また、民法は相続人が被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継すると定めています(896条)13。滞納があるかどうか、その扱いをどうするかは、売却の前に管理組合や管理会社に確認し、個別の対応は弁護士などの専門家に相談してください。修繕積立金の水準については「修繕積立金の目安」でも扱っています。
建替え決議が進んでいる場合
建替え決議があったときは、賛成しなかった区分所有者に、建替えに参加するかどうかの回答を求める催告が行われ、参加しない人は区分所有権と敷地利用権を時価で売り渡すよう請求されることがあります(区分所有法63条)。この催告や売渡請求の相手には、区分所有者の「承継人」も含まれると条文に書かれています12。相続した住戸のマンションで建替えの検討や決議が進んでいる場合は、手続きの段階を確認しておくことが判断の材料になります。決議の要件は「マンションを建て替えられる基準」、決議後の手続きは「建替え決議をめぐる争い」で解説しています。
5. 売却価格の目安を知る公的な方法
国交省の「不動産情報ライブラリ」では、不動産の取引価格や地価公示などの価格情報を、地図表示や地域検索で調べられます。不動産取引価格情報は四半期ごとにデータが追加され、コンテンツは「参考情報としての利用を想定しています」と説明されています1415。
個別の住戸の価格は、建物の状態や管理状況で変わります。近い条件の取引を複数見たうえで、具体的な価格は不動産会社の査定などで確認するのが一般的です。
まとめ
- 空き家の3,000万円特別控除は、対象家屋の要件に「区分所有建物登記がされている建物でないこと」があり、区分所有建物として登記されたマンションの住戸は対象外
- 相続税が課税された場合は、申告期限の翌日以後3年を経過する日までの売却で取得費加算の特例が関係しうる
- 相続人自身が住んでいた住戸なら、マイホームの3,000万円特別控除や軽減税率の特例が関係しうる
- 相続で取得した資産は被相続人の取得時期を引き継ぎ、5年超なら長期譲渡所得(所得税15%・住民税5%)
- 相続登記は取得を知った日から3年以内が義務。管理費の滞納や建替えの進行状況も事前に確認を
- どの特例を使えるかは個別の事情で決まります。判断は税務署や税理士に確認してください
免責事項: この記事は確認日(2026年10月15日)時点の公開情報(国税庁タックスアンサーは令和8年4月1日現在法令等)に基づいて作成しています。税制や適用期限はその後変更される可能性があります。特例を使えるかどうか、税額がいくらになるかは個別の事情で決まり、この記事はそれを判断するものではありません。個別の判断は所轄の税務署・税理士に、登記は法務局・司法書士に、管理費等の精算や建替えの手続きは管理組合や弁護士などの専門家にご相談ください。
出典一覧(確認日はすべて 2026-10-15)
出典・注
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国税庁 タックスアンサー No.3306「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」(令和8年4月1日現在法令等) https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3306.htm (確認日 2026-10-15) ↩ ↩2 ↩3 ↩4
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国税庁 タックスアンサー No.3267「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」(令和8年4月1日現在法令等) https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3267.htm (確認日 2026-10-15) ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5
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国税庁 タックスアンサー No.3302「マイホームを売ったときの特例」(令和8年4月1日現在法令等) https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3302.htm (確認日 2026-10-15) ↩ ↩2 ↩3 ↩4
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国税庁 タックスアンサー No.3305「マイホームを売ったときの軽減税率の特例」(令和8年4月1日現在法令等) https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3305.htm (確認日 2026-10-15) ↩ ↩2
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国税庁 タックスアンサー No.3202「譲渡所得の計算のしかた(分離課税)」(令和8年4月1日現在法令等) https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3202.htm (確認日 2026-10-15) ↩ ↩2
-
国税庁 タックスアンサー No.3270「相続や贈与によって取得した土地・建物の取得費と取得の時期」(令和8年4月1日現在法令等) https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3270.htm (確認日 2026-10-15) ↩ ↩2 ↩3 ↩4
-
国税庁 タックスアンサー No.4205「相続税の申告と納税」(令和8年4月1日現在法令等) https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4205.htm (確認日 2026-10-15) ↩ ↩2 ↩3
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国税庁 タックスアンサー No.3208「長期譲渡所得の税額の計算」(令和8年4月1日現在法令等) https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3208.htm (確認日 2026-10-15) ↩ ↩2
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国税庁 タックスアンサー No.3211「短期譲渡所得の税額の計算」(令和8年4月1日現在法令等) https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3211.htm (確認日 2026-10-15) ↩
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国税庁 タックスアンサー No.3258「取得費が分からないとき」(令和8年4月1日現在法令等) https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3258.htm (確認日 2026-10-15) ↩
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法務省「相続登記の申請義務化に関するQ&A」(Q1・Q3・Q4) https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00565.html (確認日 2026-10-15) ↩
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e-Gov法令検索「建物の区分所有等に関する法律」(昭和37年法律第69号)第7条、第8条、第63条(2026年4月1日施行の改正後の条文) https://laws.e-gov.go.jp/law/337AC0000000069 (確認日 2026-10-15) ↩ ↩2
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e-Gov法令検索「民法」第896条 https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089 (確認日 2026-10-15) ↩
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国土交通省「不動産情報ライブラリ」 https://www.reinfolib.mlit.go.jp/ (確認日 2026-10-15) ↩
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国土交通省「不動産情報ライブラリ」利用約款(トップページの「利用約款・ヘルプ」から。同サイトの利用約款 第7条によりリンクはトップページのみ) https://www.reinfolib.mlit.go.jp/ (確認日 2026-10-15) ↩